特等席〜私だけが知っている彼〜2
他の人たちが帰っていく中、椿芽は席に座って静かになったステージを見つめていた。つい先ほどまで、五十鈴はここで歌っていたのだ。

「歌番組で見るのより、めちゃくちゃかっこよかった……」

まだ胸の高鳴りが治まらない。頬だけでなく、顔全体が赤く染まって熱を持っている。椿芽が顔を両手で覆ってため息をついていると、「甘織椿芽さんですか?」とスタッフに声をかけられた。

「は、はい!そうです!」

椿芽が椅子から立ち上がって返事をすると、黒いTシャツを着た女性スタッフはニコリと微笑んで言った。

「牧五十鈴さんから、ライブ後に控え室にお連れするよう頼まれていますので、ご案内します」

「はい、よろしくお願いします……!」

椿芽は緊張しながら頭を軽く下げ、女性スタッフに控え室まで案内してもらう。ステージの裏側では、大勢のスタッフが機材の片付けなどを行っている最中で、一つのライブを行うのにこれだけの人が集まるのか、と椿芽は感心しながら歩く。
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