Butler and Isla
「ジュリエットお嬢様?」

ノエの問いかけに答えることはなく、ジュリエットはノエに背中を向けて走り去る。今、ノエの顔を見てしまうと泣いてしまいそうだったため、逃げることしかできなかったのだ。

(ここに来た時に心を捨てろとあれほど言われたのに……!)

この気持ちを捨てろと自分に言い聞かせても、今更ノエへの想いをなかったことにはできない。それどころか、叶わない恋とわかっているからこそ、心の中で燃え上がる何かがある。

(結ばれない恋をするなんて、私と同じ名前の女の子みたい)

ジュリエットは大嫌いな悲劇の物語のヒロインのことを思い出し、笑う。その頬を涙が伝っていた。

そうしている間にも、ケイと父親との間で結婚の準備は進んでいく。今日は、結婚式で着るウェディングドレスを仕立ててもらう日だ。もう結婚という運命から逃れることはできない。

ノエが物陰から見ているなど知らず、ジュリエットは声を殺して泣いた。
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