エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
気まずさを感じて視線を逸らすと、大通りの路肩に停まっている黒塗りの車の中から出た男性が、こちらに向かって走って来るのが見えた。
「社長。急がないと約束の時間に間に合いません」
「ああ、わかった」
彼のことを『社長』と呼ぶからには、会社関係の人なのだろう。
定時で上がった私とは違い、龍臣さんはこの後も仕事のようだ。
「これから銀座で接待なんだ。この件は今度ゆっくり話そう」
「……はい」
落ち着きを取り戻した彼の言葉を聞き、高ぶっていた感情が徐々に静まっていくのを実感する。
「タクシーを呼ぶか?」
「大丈夫です。電車で帰ります」
「そうか。送ってやれなくて悪いな」
「いえ」
なにかと心配してくれるのは私を大事に思ってくれている証拠。それなのに、心の傷をえぐるような言葉を口走ってしまうなんて最低だ。
胸がチクリと痛むなか、背中を向けて歩き出した龍臣さんのうしろ姿を見つめる。
今すぐ後を追い駆けて「ごめんなさい」と謝りたい。けれど、急いでいる彼を引き止めるわけにはいかない。
「じゃあ、また」
「はい。お気をつけて」
後部座席の窓から顔を覗かせた龍臣さんのもとに向かい、短い挨拶を交わして走り去る社用車を見送った。