エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
一日の業務が終わり、オフィスを後にする。
本当だったらこれから横浜に向かって、龍臣さんとクリスマスディナーを楽しむはずだったと思うと切なくて、大きなため息が漏れてしまう。
家に真っ直ぐ帰るだけのクリスマスイブを寂しく思いながら、従業員通用口から外に出て駅に向かってトボトボと歩いていると、背後から不意に声をかけられた。
「美桜さん」
「っ!」
私の名前を呼ぶ声を聞いた瞬間、数日前の忌々しい出来事が脳裏に浮かぶ。
涼ちゃんがまたお金の無心に来たのかもしれないと警戒して振り返ると、そこには彰仁さんの姿があった。
「ど、どうして?」
なにがなんだかわからずに呆然とする私を見て、彰仁さんがフッと微笑む。
「兄に美桜さんと一緒に食事をしてほしいと頼まれました」
「えっ、そうなんですか」
「はい。美桜さんに寂しい思いをさせたくないと言っていましたよ」
彰仁さんの説明を聞いて、『あとのことは彰仁に任せてある』というメッセージの意味をようやく理解する。
遠くにいても私を思ってくれる龍臣さんの気遣いはうれしい。でも、トラブルに見舞われている彼を差し置いて、彰仁さんとクリスマスイブを過ごすのは抵抗がある。