クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「凛花」


彼女の名を呼びながら、頭を撫でる。
そうしているうちに、綻んでいたはずの顔が強張っていくのを自覚した。


「……ごめんな」


謝罪は、自然に口を突いて出た。
指で頬をくすぐると、凛花が嫌がるように顔を背ける。
眠りに落ち、無意識下での反応とわかっていても傷つく自分に半分呆れて、俺は重い溜め息をついた。


「俺が必ず幸せにする。……だから」


好きになってくれとは言わない。
俺を嫌わないでくれ……。


胸がきゅうっと締めつけられ、俺は彼女の顔の横に手をついた。
ほとんど吸い込まれるように顔を近付け、薄く開いた小さな唇にキスをする。
一度強く吸い上げてから、ゆっくり唇を離した。
――凛花は、眠ったまま。


「凛花……」


堪らない切なさに駆られ、顔を歪めた。


『一体お前、いつから……』


つい先ほど、純平に問われた不躾な質問が脳裏をよぎる。


「一目惚れ、なんて言ったら、俺は子孫の代まで笑われるだろうよ」


彼のドヤ顔を想像するだけで忌々しく、俺は唇を噛んだ。
もちろん、出会った時五歳だった彼女に懸想した……なんてことはない。
あの時、凛花は両親と一緒に本家の催しに来ていて、純平と俺が剣道の稽古をしていた道場に迷い込んだ。
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