クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
***


奎吾さんが部屋を出ていって、どのくらい経ったか――。
先ほどまで微かに聞こえていた物音がしなくなって、私はのっそりと上体を起こした。
はだけた胸を片腕で抱きしめ、ベッドから身を乗り出す。
床に落ちたブラジャーを拾い上げて、ほとんど機械的に着けようとして――。


『お前が、こんな下着で、男を誘惑する女だとは思わなかった』

「……っ」


再びポイと床に放り投げ、勢いよく布団を被って丸くなった。
表情を失くし、汚らわしいものでも見るような目をした奎吾さんが、脳裏に焼きついている。


私がこんな下着を着たからって、簡単に誘惑される人じゃない。
かえって、淫らな女と軽蔑されるだけだとわかっていたのに、どうして私、この下着を着ちゃったんだろう……。
ほんの数時間前、ワインボトルのコルクを抜いた自分を、穴を掘ってでも葬り去りたい。


奎吾さんから香港出張の連絡をもらった時から、帰ってこれないことも予想して、覚悟はできていたはずなのに。
それでも、もしかしたら午後には、夕方には。
……夕食までには帰ってきてくれるんじゃないかと、私は朝から時間をかけてスパイスが効いた本格カレーを作った。
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