もう一度会えたなら
 こんもりと盛られたポテトサラダを一口食べ、「んーっ、おいしい」と美紀はまた言葉を漏らした。

「うまいだろ。ママお手製のポテサラ」

 隣のテーブル席に座っていた真面目風サラリーマンの男性が、中指で眼鏡を押し上げながら言った。

 これが藤沢(ふじさわ)海斗(かいと)との出会いだった。

 大きな独り言を聞かれて気恥ずかしい気持ちになり、美紀ははにかみ笑いを返した。そして腕時計に目を遣り、食べるスピードを早めた。電車の時刻が迫っていたのだ。
 こんなことならもう三十分早く家を出ればよかった、と後悔しながら残りのコーヒーを一気に飲み干し、隣の席の男性と軽く会釈を交わしてレジに向かった。

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「よかったらまた寄ってね」

「はい。近いうちに必ず」

 ママから釣りを受け取りながら、美紀は丁寧に挨拶をした。

「ありがとうございました! またお待ちしてます!」

 カウンターから武さんの声。
 美紀はもう一度頭を下げ、ドアベルを鳴らして店を出た。
 “いってらっしゃい”の声掛けがなかったことを少し残念に思いながら、突然明るくなった視界に慣れない目を伏せ、足早に駅まで歩いていつもの電車に乗り込んだ。

< 4 / 26 >

この作品をシェア

pagetop