朝を探しています
「…まさか雅人があんな嘘をつくと思ってなかったから… 嘘、でいいんだよね?」
「…ああ。…ごめん、ごめん波…」
「もうごめんはいいよ。…何度言われても、信じられないから。」
「ごめ…っ、…」
「でね、雅人が変な嘘ついた時に、思っちゃってね。…もし、片山さんがあんなものを送ってきてなかったら…もし、今日会ってなかったら、私、怪しいなって思ってても、雅人の嘘を信用したかもしれない。」
「ちょっ…ちょっと待って。真美…っいや、片山に、会ったのか⁈ 今日⁈」
「…ウチを訪ねてきたの。家にあげるのはどうしても嫌だったから、外で会って話した。」
「待ってくれ。待って…頭が、追いついていかない…」

 当惑する雅人の顔を波那は冷ややかに見下ろした。
「待つ必要ないよね、それ。雅人の頭が追いついたら、また嘘をつかれるかもって思うし。」
「もう、絶対に嘘はつかない。本当だから。」
「…雅人の嘘を信じたくて信じてたら、また裏切られ続けてたってことじゃない。…だから、このことについて私は、真実を教えてくれた片山さんに感謝しないといけないのかなって思ったら………死にたくなった。」
「波那!」

「…うん、ごめん。死んだりなんかしないわ。琴乃も幸汰もいるんだから。…でも、雅人にとったら私はそんな簡単に誤魔化せてしまう存在なんだなぁって、そう思ったらね…もうね…雅人に何にもぶつけられないなって…」
「違う、違うんだ! 嘘をついたのは、波那とのこの生活を壊したくなかったからなんだ! 波那が浮気のことを知ったら許さないだろうって思って…波那と琴乃と幸汰を失うかもって思ったら怖くてたまらなくなって…だからあんな馬鹿な嘘をついたんだ! でもごめんっ…結局こんなに波那のこと傷付けた… 絶対に、絶対にもう嘘はつかない。約束するから。…だから、波那が今日俺に言いたかったこと、全部言ってくれ。頼むから。」

「…色々あったよ、言いたいこと、聞きたいこと…っ…でも…」
「答えるから! 全部全部、ちゃんと答えるから! なあ、頼むよ、俺にチャンスをくれ…っ、失いたくないんだ! 何でもするから…何でも、するから、頼むから俺のことを捨てないでくれ… 足掻かせてくれ、頼む、頼むよ、波那…」

 再び頭を床につけて懇願し始めた雅人の姿に、波那は少しずつ怒りが蘇ってくるのを感じた。
 その怒りに任せて口を開いていいかどうかはわからなかったが、もうどうにでもなれという気持ちが勝った。 

「いつから片山さんと関係を持ってたの?
金曜日に毎週遅かったのは彼女と一緒だったからじゃないの? 雅人がここ最近浮かれてたのは彼女に本気になっていってたからでしょ? 彼女と抱き合った後、家に帰ってきたときどんな気分だった? 騙されてる私たちを見て、馬鹿にしてた?」
「は、波那っ、待って!」
「もしバレたらどうする気だったの、離婚? 慰謝料と養育費払って彼女と一緒になる? そもそもどうして彼女はあんなものを送りつけてきたの? いつまでも気がつかないでのほほんとしてる私が気に食わなかったから? さっさと別れろって意味? 雅人は本当に知らなかったの?」
「待って! 波那、ちゃんと答えるから、待ってくれ!」
「何言われても信じられないよ!」
 
 叫んで両耳を押さえてしまった波那を前にして、雅人は両の拳を強く握りしめた。
 何度か口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、観念したように一度目をぎゅっと瞑ってから話し始めた。


「…信じてもらえないかもしれないけど、ちゃんと答えるよ。
 …片山は部署の後輩で…3ヶ月ほど前までは、普通の上司と部下だった。異性として見たこともなかった。…それが、何かの飲み会の帰りに、彼女が別れた夫にストーカーされてることを知って…そこから、時々相談に乗るようになった。その…彼女の離婚の原因が元夫の浮気だったこともあって…俺のことと重ねたりもしたんだ…」



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