【短】逃げないことを、逃げの言葉にするのはいい加減して
ジッとそのシミを見つめてから、
「はっ。今回の子は随分とわっかい子なんじゃないのー?」
と、空笑いを溢した。
今までも、我が家で使ってるのとは全く違うボディーソープなんだか、柔軟剤なんだかの匂いを付けて帰って来たりしたけど。
今時、ワイシャツに口紅、ねぇ?
古風なのか、はたまたテレビの影響か、それとも一周回って今の流行りになっているのか、それは分からないけれど、私的にはシミ取りするのは手間が掛かって嫌なので、ガサッとゴミ袋の中に突っ込んで棄ててやった。
車の中に、安っぽいピアスの片方。
助手席に私のものとは明らかに違う、長いウェーブの掛かった髪。
その内、背中に爪痕でも付けられてくるんじゃなかろうか、この男は?
「…はぁ。私もコーヒーでも飲んで仕事するかな」
そう、独りごちて、私はコーヒーメーカーから熱いコーヒーをなみなみとカップに注ぎ込むと、仕事場になっている自室に戻った。