【短】逃げないことを、逃げの言葉にするのはいい加減して
「精一杯、傷付いた顔をしてあげるから、せいぜい苦しみなさいな」
手ぐせが悪く、要領の悪い駄目な…如何しょうもない男。
折角、拾ってあげたのに。
そんな私からも捨てられるのね。
私が捨てたら、貴方は次にどんな人に拾われるんでしょうね?
…愛してる?
くだらない。
だから、それがなんだっていうの。
あのね?
女だから危なくもなれるのよ。
だから、貴方も少しは悟ったら?
私は何時までも一つの事に縛られていたくはない。
何時も何も言わない。
それなのに、それを逃げ道にしている貴方を…これ以上愛せるわけがないでしょう?
そんな都合よく世界が回っているなんて思っていないで、いい加減、現実に目を向けなさい。
私は温くなったコーヒーをズズズッとすすって、ほっと一息を付いた。
証拠は揃った。
集中の妨げになる無言電話。
スーツから出てきたキスの数を思わせるような、メモの切れ端。
そしてきっと、浮かれて買わされたんだろう、私の好みとは到底掛け離れている、ケバケバしいピアスの片割れを、一摘みして眺めてから、机の上にポイッと投げる。
まぁ…私と似たような名前の相手を選んでいる辺りは、可愛いんじゃないのと思うけど。
それもただの冷やかし程度でしかない。
ねぇ、何時も電話の最後に取って付けた様に囁く、
愛してる、なんて。
それは、だからなんなの?
その場凌ぎの気休めでしかないから、私は笑って流すだけ。
ずっと、意味のない台詞を繰り返す貴方は何時でも、愛という幻想の上で主役としていたいだけ。