ワケありイジワル王子はツンデレ姫様を溺愛したい。

忘れてしまうほどに。

【梨愛side】


亮と会った後、梨愛は急いで被服室へ行き、メ
イド服を受け取った。
そして採寸はしたものの、念の為試着すること
にした。
やっぱり………梨愛メイド服嫌い。
スカート短くない!?
梨愛が不服そうな顔をしているから、他のみん
なが……
「桃瀬さん!とってもお似合いですよ!!」
とか、
「まるで天使のようですわ!!」
なんて言ってくれたけど、梨愛はやっぱり不
安。
………ううん、梨愛!弱気になっちゃダメ!
亮だってきてくれるんだから、ちゃんとメイド
をやるんだ!!
そう意気込んで、制服に着替え直し、梨愛の担
当の看板作りチームの場所へ向かった。
そこは中庭。
「桃瀬さん、ここの色塗ってくれるかな。」
「うん!」
「っ……ありがとう……」
ん?さっきの男子も顔赤かったな。
風邪流行ってるのかな?
梨愛、風邪ひかないように注意しないと!!
「1回看板立てまーす。」
そんな声がある中、梨愛はまだ色塗り中。
だから、気が付かなかった。
看板がこちらに傾いている事に。
「桃瀬さん!危ない!!」
「え………」
ガッシャーン!
そんな音が起こると同時に、梨愛の体には痛み
が走って。
もう次の瞬間には、梨愛の意識は無かった。

タタ?
気が付くと、そこにはタタがいて。
タタは梨愛の方を見向きもせず、どんどん先に
進んでいってしまう。
嫌だ………なんで梨愛のこと置いていっちゃう
の?
待って、待ってっ。
でも、タタが足を止めてくれることはない。
あ……タタ……い、や……
バッ。
さっき暗闇の中にいたはずの梨愛は、真っ白な
ベッドの上にいて。
悪夢から目覚め、体を思わず起こしてしまう。
ズキッ。
「いっ………」
背中に猛烈な痛みが走る。
あ、そっか。
梨愛……看板に………。
状況を理解したところで、梨愛の体は暖かな体
温に包まれた。
「リアちゃんっ…………」
耳元から、タタの声がした。
「た、た………?」
「うん、そうだよ。助けてあげられなくて、ごめ
んっ………」
「タタ?何で、タタが謝るの?タタ、別に何も悪い子もして無いし……」
「ごめん…………」
タタは謝るばかり。
「タタ………もう、謝らないで?梨愛、悲しくな
る………」
別に、心配してくれて嬉しいなんて思ってないもん。
そう言うと、タタは謝るのをやめてくれた。
すると、タタはハッとしたような顔をして。
「リアちゃんっ、ごめん。寝てなきゃ。僕が抱き
しめたから………それに、痛そうにしてた
し、さっき急にうなされて……大丈夫?怖い夢
でも、見た?」
あ………
「タタ、がっ……いな、くっ、なっちゃう夢……
見てっ……」
勝手に涙が溢れてきた。
何故か、会って間も無いタタを求めてしまう自分がいた。
そんな梨愛を見て、タタはとても切なそうな顔をした。
「そっか………大丈夫、僕はいなくならない。」
タタは、梨愛をベッドに横たわらせたあ後、大
きいその手で、梨愛の頬を包んでくれた。
あったかい………
「うんっ…………」
梨愛が微笑んでみせると、タタも笑ってくれ
た。
「リアちゃん、今日はゆっくり休んで。それと、
明日からもしばらく入院だからね。安静にして
て。」
「うん。」
優しいタタ。
あなたへのこの気持ちは、何?

2週間後。
梨愛の背中の怪我は2週間で治った。
タタと話したその後、パパやママ、純麗や亮ま
で来てくれた。
みんなすっごく心配してくれて、なんだか気恥
しいのと同時に申し訳なく思った。
梨愛ドジっ子だから……気を付けないと!!
そして今。
梨愛はメイド用語?みたいなのを習ってる。
簡単に言うと、梨愛がすっごく嫌いなやつ。
「桃瀬さん!はい、ご主人様ぁ。です!」
「ご、ご主人様………」
「もーう!全っ然ダメです!!もっと可愛らしく!」
うう、亮に言った時は出来たのになあ。
よしっ、じゃあ目の前に亮がいると思って……
なんか、それって気持ち悪いかも。
「ご主人様ぁ」
ど、どうだ!?
「まあ!桃瀬さん、先程に比べてとてもお上手に
なられましたわ!!」
よしっ!梨愛は本番に強いってことが証明され
たね!
よーし!この調子で頑張る!!

文化祭当日。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ」
1年A組の教室前の廊下では、そんな声が飛び交
っている。
「桃瀬さーん!!これどこ置いたらいいか知って
る?」
ん?それは確か………
「多分職員室前の学習室だったと思う!!」
「分かった、ありがとう!!」
ふーっ、思ったよりバタバタしてるな。
お金持ち学校とはいえ、一般のお客さんもたく
さん来るため、ざっと学園内には300人はいる
だろう。
梨愛は今、教室の中で料理を運ぶ役目をしてい
る。
さっきみたいにお手伝いとかしたりするけ
ど……指定がない限り、あまり梨愛は前に出な
い。
それで………
亮、まだかな。
文化祭が始まって早2時間。
もうそろそろ、亮のクラスでは休憩が取れると
思うんだけどな。
遅いな………
そう思いドアの方を見ると、見覚えのある顔
が。
その人はなんと………タタだった!
えっ、ちょ、タタ!?
何で………待って、梨愛服乱れてない!?
って、何で服装気にしてるんだろう?
タタが来たから?………いやいや、そんな事な
い。
「梨愛ちゃん。」
「ひゃい!あ………」
噛んじゃった〜!
恥ずかしい………
「梨愛ちゃん?何で顔隠すの、見せてよ。」
「「「「キャーー!!」」」」
タタのその発言で、1年A組は高い声で包まれ
る。
「ほら、早く。僕、ご主人様だよ?」
うっ………
言いたくないけど………やる!
やるからにはちゃんと!!
それが梨愛のモットーだ。
「いらっしゃいませ、ご主人様。」
そう言ってニコッと微笑んだ。
「「「「っ………」」」」
?何だか………クラス中の男子の顔が、赤い?
何でだろう。
あ!こんなこと考えてる場合じゃない!!
メイドをちゃんとやらなきゃ!
「どなたか指名希望はありますか?」
そう言うと、タタはなぜか少し呆れ顔。
え……梨愛何か変だった!?
そうあたふたしていると、タタは梨愛に向かっ
て微笑んで。
「もちろん、梨愛ちゃんに決まってるでしょ?」
そう言って、梨愛の唇に人差し指を添える。
「………!?!?」
恥ずかしくて、顔が真っ赤になっていくのが自
分でもはっきりと分かる。
もう!からかわないでよ!!ふんっ。
「ご主人様、こちらのお席へどうぞっ」
梨愛、今、目笑ってるかな。
桃瀬梨愛!!怒りを抑えろ!!
「あれ、梨愛ちゃん怒ってる?」
「いいえ、怒ってませんよ!?」
「そ、そう………?」
必死にメイドを演じる。
次はえっと………注文を聞く!
「ご主人様、何をお召し上がりになりますか?本
日のおすすめは、この桃とマンゴーのタルトで
す!!」
「うーん………」
タタは、文化祭のメイド喫茶なのに、とても真
剣に選んでいる。
梨愛、さらっとおすすめ言っちゃったけど……
タタって甘いもの好きかな?
タタはようやく決まったようで。
「じゃあ梨愛ちゃんがおすすめしてくれたから、
その桃とマンゴーのタルトと、カフェオレちょ
うだい!」
タタ……結構気分ルンルンだ。
タタ、コーヒーじゃ無くてカフェオレにしたっ
てことは、結構甘いもの好き?
それとも、タルトにカフェオレが合うと思った
だけ?
そんな事を1人考え込んでしまっていると、タタ
がこんな事を言ってきた。
「ねえねえ梨愛ちゃん、あれやらないの?」
「あれ?」
「そ。あの“萌え萌えきゅん”ってやつ。」
なっ………
学園の王子がなんて事知ってて言ってるの!?
「やらないよ!」
「そう?梨愛ちゃん、似合うと思うけどなあ。」
「それ褒めてるの?」
「うーん、分からない。」
「もう、分からないって………ふふ、もうちょっ
と考えてよ!梨愛の事すぐからかう!!」
そう言うと、タタは無邪気な少年のような顔を
して。
「ごめんごめん。あははっ。」
「もーー!!笑うなあーー!!」
とても楽しかったし、嬉しかった。
梨愛、タタが来てくれて、良かったと思う。
でも、そんな梨愛とタタの様子を亮が見ていた
なんて。
浮かれていた梨愛には、まったく気付く事が無
かった。

よーし!文化祭1日目終了!!
梨愛お疲れ様!
もう今結構遅いから、ほとんどみんな帰っちゃ
った。
その影響で、物音がするとすれば、梨愛の廊下
を歩く足音くらい。
そういや……亮、来てくれなかったな。
亮のクラス忙しかったのかな。
例えそうだったとしても、梨愛は少し悲しい気
持ちになっていた。
そんな時、ふと玄関の方とは違う廊下を見る
と。
そこには、美化委員の仕事で花に水やりをして
いる亮の姿があった。
いい機会だと思い、亮に今日来なかった理由を
聞こうと思った。
「りょーうっ!!」
後ろから忍び寄り、亮の名前を呼ぶ。
「うわっ……って、なんだ梨愛か。」
むう。
「なんだって何よ!別にいいじゃん!!」
「あー、いや………そうじゃなくて。」
そう言って、亮は少し顔をくもらせる。
「亮?」
「帰らねえのかよ。」
「え?」
「あいつと、清美拓也と。一緒に帰るんだろ?ど
うせ。」
亮、どうしたの?
「何でそんな言い方……」
「別に。」
別に、だとお?
「何かあるんでしょ!別に、じゃ分からない!!何
かあったんなら言ってよ!」
亮は、いつも1人で抱え込もうとする。
だから、梨愛が話を聞いてあげないと。
すると、亮はとても切なそうな顔をしてこう言
った。
「ほんとに、何も伝わってなかったのかよ……」
「伝わる?何のこと?」
「はあ………ちゃんと、聞いとけよ。」
亮はとても大きく息を吸い、吐いて。
梨愛の目を真っ直ぐ見つめる。
「梨愛。俺、お前のことが好き。」
そう。とても切ない顔で、彼はそう言った。
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