ワケありイジワル王子はツンデレ姫様を溺愛したい。

覚悟と秘密と希望と

【拓也side】


「僕たちが付き合って、言おうと思ったんだ。僕の……いや、俺の秘密の事を。」
驚いた顔をしている梨愛ちゃん。
これから、俺の運命が決まる。
受け入れてもらえるのか、それともーー。

中学1年の頃。
俺は、日本一財閥の跡継ぎというプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
毎日勉強ばかりで、跡継ぎになんかなりたくないとまで思っていた。
「あいつの家超お金持ちなんだってよ。いいよな、なんでも買ってもらえるんだろ?」
「俺も金持ちの家に生まれたかったー。」
周りの奴らはそんな事を言っているが、俺からしたらソイツらが羨ましかった。
選択肢がいくつもあって、自由だったから。
兄弟のいない俺は、清美グループの跡継ぎになることは必然だったから、選択なんてその一択だけだった。
普通の中学に行っても、勉強のスピードが遅いからと家に名門大学卒の家庭教師をつけられ、家の外に出る事も無いから、俺はまるで鳥籠に囚われているような気分だった。
そんな時、俺は追い詰められ家を抜け出した。
1人で走って、走って、走って。
久しぶりに動いたから、息切れも激しかった。
気が付くと、俺は今まで来たことの無い知らない場所にいた。
薄暗い空気が漂っていて、もう日は沈み始めていた。
「家、今どんな騒ぎだろうな……」
唯一の跡継ぎがいなくなったとなれば、いつも滅多に顔を合わせない父も動くだろう。
そんな事を考えていると、雨が降り出した。
その頃は10月。
少し肌寒い日で、更に雨が降り出したとなると、服1枚で抜け出してきた俺には真冬のように思えた。
1人で道端にしゃがみこみ、家に戻るか悩みながらも助けを待っていた時。
「君、家出?」
そう、声をかけられた。
見ると、そこに立っていたのは俺と大して年の差がなさそうな高校生くらいの男2人だった。
2人は傘を手にしていて、どうやら背後に止めてある車から降りてきたようだった。
家出かどうか問われても、その時の俺は寒さで自分の体をどう温めるかという事しか頭に無く、ソイツをシカトした。
ソイツは後ろの奴と何か会話を交わしたら、俺に自分が着ていた上着をかけてくれた。
その服はまだソイツの体温で温かく、今までで1番温かく、優しく包み込んでくれたものだった。
俺は思わず涙が出て。
「あり………」
ありがとうと、言おうと思った。
でも、途中で声が出なくなって、周りも見えなくなって。
俺は悟った。
倒れたな、と。

目が覚めると、そこは見知らぬベッドの上だった。
周りを見渡す。
ざっと、15畳くらいだろうか。
その部屋の角に、ベッドが置かれていた。
ベッドはまだ見るに真新しいが、その部屋は荒れていた。
それに、部屋の外からは騒がしい声が聞こえる。
最悪の目覚めだ………。
そんな事も思ったが、次の瞬間には感謝に変わった。
「目、覚めたみたいだね。おはよう、君熱あるよ。」
そう言われてハッとする。
自分のおでこに何か冷たくてひんやりするものがあると。
俺の目線から意思を読み取ったのか、ソイツは説明を始めた。
「さっき僕たちが歩道で会ったのは覚えてる?その時、雨で濡れたからだろうね。高熱で君が倒れて、ここに連れてきたの。ちなみに、ここは“僕たち”の家だよ。」
僕たち?
見ると、ソイツの後ろにさっきいたもう1人の男と見たことない男3人と女1人がいた。
カラフルな頭だ……。
緑、ピンク、赤、青………
全員、黒髪にそんな派手な色のメッシュを入れている。
それにしても……
この部屋の外から聞こえる声はなんなんだ?
ここはどこなんだ?
助けて貰ったが、これはある種誘拐とも言えるのでは?
そう思ってしまう。
でも、俺は家出してきたんだし………そんな事言える立場じゃない。
もう、学力なんか、財力なんか、清美の名なんか、いらない。
「ここはどこだ?」
そう聞くも、ソイツは答えてくれない。
「ごめんね、場所を教える訳にはいかないんだ。
でも、これなら教えてあげる。僕達は“風龍(ふうりゅう)”。日本1の暴走族だよ。それで、ここは風龍のたまり場。外がうるさいのは下っ端達がいるからなんだ。」
目を細めて笑うソイツ。
暴走族………俺みたいな金持ちの家に生まれたのとは、反対のような奴だ。
じゃあ………自由、なのか。
羨ましい。
「おーい、なんで黙ってるの?」
「あ……いや、なんでも……」
俺の様子を見たソイツは、顎に手を当て声を上げる。
「う〜ん……あ!ねえ大輝(たいき)!この子俺らの族に入れようよ。」
「はあ?正気か、奏多(かなた)。」
なんか………勝手に話進められてね?
「いや、俺帰るんで。」
「どこに?」
「…………家に。」
「そんな間が空いて言われてもなぁ。返す気にならないなぁ。」
コイツ………。
思わず命の恩人と言っても過言のない人に文句を言いそうになった。
「はあ………じゃあどうすればいいんだよ。」
そう言うと、ソイツはニタ〜っと笑って満足気な顔をうかべた。
「じゃあ、族に入っ……」
「お断りします。」
途中で言葉を止めてでも止めてやった。
族にだなんて、入らない。
ただの犯罪者組織だ。
それに、ここにいると羨ましさで頭がどうにかなりそうだ。
その場をそそくさと立ち去ろうとしたその時。
ソイツに止められて。
………ったくなんだよ。
振り返ると、まだソイツは笑っていた。
「帰るかどうかは、僕たちの“普段”を見て言ってからにしてよ。」
そう言って連れてこられたのは街の商店街。
ここに来るまで目隠しされたけど、恐怖感は抱かなかった。
こんなところに来てどうするんだ?
すると、ソイツはある1人のおばあさんの元へ向かった。
「こんにちは橋田さん。雨だし危ないよ?荷物僕が持つから。」
「あらかなちゃん、いつもありがとうねぇ。雨いつ止むかねぇ。」
そんな2人のやり取りを、俺は1人見ていた。
コイツは………人助けをする為に来たのか?
俺の思っていた暴走族と真反対で、拍子抜けをしていた。
暴走族って言っても、コイツらは正義の味方なのかもしれない。
ソイツの他にも、10人程度の暴走族の仲間達が人助けをしていた。
そして、街の人達から何かをお礼に貰っているようだった。
なんか、いいな……こういうの。
そう、思っている自分がいた。
すると、自分の足が勝手に動いて。
「あんた……じゃなくて、奏多さん。俺を、風龍に入れてください。お願いします。」
頭を下げていると、頭上から聞こえてくる声。
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。うん、風龍においで。風龍が、少しでも君の心を休める存在になってくれたら、嬉しい。」
「っ……!ありがとうございます。これから、風龍に力一杯尽くします。」
「うん、よろしくね。」
それから俺は、奏多さんを慕った。
奏多さんは『敬語なんて肩苦しいからやめて』と言っていたけど、こんなにすごい人に敬語を使わなくて誰に使うんだと思い、敬語はやめなかった。
「ところで君、名前は?」
そういえばまだだった。
清美の名前は使わないでおこう。
「拓也です。」
「そうか、拓也。改めて、僕は北田奏多。そして、風龍の総長。これから、着いておいで。」
「はい!」
俺は風龍に居続けることを決め、家には帰らなかった。
俺にも、それなりの覚悟があったからだ。
いつも、人助けをして感謝されて、時には面白い話やゲームをしたりなんかして、とても自由で楽しい日々を送っていた。
風龍に来て1週間。
父にもこの場所がバレていないままだった。
そんな時に風龍のたまり場に、別の族らしき人達が鉄パイプなどを持って入ってきた。
ソイツらは、下っ端の1人を人質に取っていた。
「おーい、総長さーん。大人しく着いてこないと……こいつの首が飛ぶぞ?」
すると、奏多さんは間を開けずに1人でソイツらの元へ向かった。
「ちょっ……奏多さん!?本気で行くんですか!?」
そう言うと奏多さんはいつも通り笑みを浮かべて。
「行くよ。じゃないと、あいつが居なくなっちまうだろ?」
あれ?奏多さん、いつもと口調が……。
もしかして、怒ってる?
そう思った時、奏多さんは今いる2階から1階へ飛び降りて綺麗に着地した。
「俺に何を望む?」
「………!」
やっぱり、口調が違う。
奏多さんは、それだけ仲間思いなんだ。
「日本一の総長さんは肝が座ってんなぁ。まあ、話が早くて助かる……っよ!」
急にら相手の長らしき男が奏多さんに鉄パイプ片手に殴りかかった。
「奏多さん!!」
俺は叫ぶ。
あのままだと、奏多さんが!
焦っていると隣から声が聞こえて。
副総長の大河さんだ。
「拓也、大丈夫だ。」
いや、大丈夫な訳な………
俺のそんな考えは、一瞬にして去っていった。
奏多さんが、蹴りを入れて1発で仕留めていたのだ。
そして、こういっているように聞こえた。
「二度とその面見せんな、失せろ。」
「っ………」
それがわかった時、全身の毛が逆立つのを感じた。
いつもと違う奏多さん……怖い。けど、かっこいい。
俺がぼーっとしていると、たまり場の外から女の悲鳴が聞こえた。
「キャーーー!!」
俺は目を疑った。
「あれは………愛菜!?こんなとこで何してるんだ!?」
そう。さっき悲鳴をあげていたのは俺の婚約者、東雲愛菜(しののめまな)だった。
親に決められた婚約者でも、それなりに愛菜のことは好きだったし、結婚にも納得していた。
愛菜は下っ端と同じく人質に取られていたらしかった。
「よくも俺らの総長をやってくれたなぁ!!」
そう言いながら相手の暴走族の1人が愛菜を殴ろ
うとしていた。
「愛菜、逃げろ!!」
そう叫んだ次の瞬間。
奏多さんが、愛菜を庇い頭を鉄パイプで殴られた。
あ……ああ………
「奏多さん!!!!」
すぐさま奏多さんの元へ行く。
出血が酷い。
「奏多さん、奏多さんっ!しっかりして下さい!!」
そんな様子を見た相手の暴走族は怖気付いたのか、総長らしき人物を置いて逃げた。
でも今は、奏多さんの方が優先だ。
数分後、大河さんが呼んでくれていた救急車が到着した。
付き添いには大河さんが行き、俺はたまり場に残された。
そういえば、愛菜!
愛菜は、所々赤く染まった自分の服を見つめて放心状態になっていた。
「愛菜………」
名前を呼ぶが、愛菜は体をビクッと震わせる。
掠れた声で、愛菜が俺に言った。
「さっきの人たち、暴走族……だよね?拓也くん、今までずっとここにいたの?今拓也くんの家大騒ぎなんだよ。みんな一生懸命探してるのに………拓也くんは暴走族になんて入って、さっきみたいに人を傷つけてたの?」
「ちが………」
否定ができない。
確かに人は傷つけていないし、むしろ助けていた。
けれど、俺が族に入ったから大勢に迷惑をかけた。
これじゃあ………人を傷つけるのも同じだ。
すると。
「ねえ、拓也くん。婚約は破棄する。拓也が怖い。一緒に居たくない。」
そう言われて、俺は気づいた。
俺は、なんて事をしていたんだ。
人の助けになる事を家での都合のいい言い訳として使い、逃れたかっただけじゃないのか。
それに、大切な愛菜も失った。
飛んだ失態をしてしまったと。


「……それで俺は父さんにめちゃくちゃ怒られて、婚約者を失った。それに、族にも入っていた。」
梨愛ちゃんの顔が見れない。
梨愛ちゃんも、愛菜みたいに怖がって今まで通りには接してくれないだろう。
やっぱり、話さなければよかった。
俺が俯いていると。
「えっと……つまり、タタはかっこいい人だったって事だよね?………今も、かっこいいけど。」
「………!!」
かっこいい?怖がらないのか?
それに、今もかっこいいって………梨愛ちゃんのバカ。
「あーあ、なんか拍子抜け。じゃあ、梨愛ちゃんは俺が怖くないってこと?」
「?うん、タタが怖いはずないよ!」
なんか微妙に違う気がするけど………まあ、いいや。
俺は、梨愛ちゃんのおでこにキスをした。
「梨愛ちゃん………いや、梨愛。じゃあ、もう秘密事は無いんだからこれからたっぷりと俺に溺愛させろよ?」
「!!」
顔を赤く染める梨愛。
ああ……可愛すぎだろ。
俺は、更に梨愛に溺れていく。
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