8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
『時間を止めるぞ』

 ドルフは、時を止めて大空へと飛び立つ。オリバーがいつものように王都の街を眺めていると、ドルフは突然、ぽつりと言った。

「……フィオナもオスニエルも、お前のことを心配している。もっと甘えてやれ」
「甘えて?」

 オリバーには予想外な一言だ。

『いい子であろうとしなくてもいいってことだ』

 ドルフは、かみ砕くように言い直したが、オリバーにはまだピンとこない。

 いい子とはなんだろう。単に親の言うことを素直に聞く子供ということであれば、オリバーはいい子と言えるかもしれない。だけど、オリバーはいい子であろうとしてそうしているわけではない。オリバーはみんなが笑っているのが好きで、悲しい顔は見たくない。だから余計な波風は立てないようにしている、それだけだ。

「僕はべつに、いい子じゃないよ」

 風を体に感じながら、オリバーはため息をつく。
 自分がいい子だなんてとても思えない。たぐいまれなるカリスマ性で国を引っ張っていく父親にも、聖獣の加護を受け、自国の経済を回していく母親にも劣っている。一緒に生まれたアイラだって、そこにいるだけでみんなを笑顔にできるのに、オリバーにできるのはそれを壊さずにいることだけだ。

「ただ僕は、気になるから、こうしているだけ。アイラの元気がないと、心配でいろいろ手につかなくなるから嫌なんだよ」
『……そういうのを優しさというんじゃないのか?』

 ドルフはどこかあきれたようにそう言うと、『まあいいが』と言って黙った。
 オリバーはドルフに掴まる腕に力を込める。不安定な自分は、すぐにでもどこかに飛ばされてしまいそうで、落ち着かない。どうすれば心の底から安心することができるのだろう。

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