海に溺れて
④ 息子の死 

 その夜僕は、パソコンに向かい、息子が死に至るまでの経緯を思いだしながら打ち込んでいた。

『最初に便秘や下痢、発熱の症状があった。それから血尿を確認した僕は、自分の勤務している病院に急遽、入院させた。原因は先天的なものらしい。息子の病名は、『ウィルムス腫瘍』とわかった。まだ三才の息子の腎臓に、腫瘍ができたというだけでかなりのショックをうけた。

 腎臓にできた腫瘍を切除することになり、僕が執刀した。ほかの治療法も考えたが、病院の意向には逆らえなかった。

 手術の日、本来であれば麻酔科医が全身麻酔をかけるのだろうが、同僚の外科医が麻酔をかけた。麻酔と手術を兼務することは物理的にも無理があるからだ。

 しかし、今思うと、外科医が専門ではない麻酔に手をだすべきではなかったと思う。しかし、いままでそれでやってきたということもあり、自分の子供だから、ほかの病院から麻酔科医を頼むということは心苦しくてできなかった。

 午前十時に、同僚のKが『静脈確保』の処置。つまり、患者の手の甲に浮きあがる太い静脈を探して、手首付近に点滴針を刺すことだ。その後にKは息子に麻酔をかけた。麻酔事故の原因は、人工呼吸器と、気管内チューブを連結しているすりあわせ部分がゆるんで隙間ができ、酸素をふくんだ麻酔ガスが、そこから露出したことによるものだった。その後、事故による息子の死亡原因は、病院の指示で闇に葬られた。妻には真実を語れずに、とり乱した妻が賀茂を責める日々が続き、結局離婚の手続きをとることになった』
 
 パソコンのキーボードに涙がしたたり落ちてきた。僕は目をつぶり、自分の頭を数回叩いた。
 
 僕は気分転換に升潟まで車を走らせた。雪からみぞれまじりの雨にかわっていた。僕の悲しみも洗い流してくれたらと、空を仰いだ。
 
 湖のように広い升潟には、一年中、升潟に白鳥たちが三羽旅立つことなく暮らしていた。怪我でもしているためなのか、理由はわからない。冬が過ぎても旅立たない白鳥が、まるで僕の人生のように思えて、罪もない白鳥たちをにらみつけた。

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