秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 グンッと高度を上げていくアポロンとアズフィール様を見上げながら小さくつぶやく。
 すると、その声が聞こえたわけでもないだろうに、アズフィール様がこちらを振り返った。
 ……え?
 アズフィール様は右手を掲げ、何事か告げる。
 実際の声は聞こえなかったけれど、アズフィール様の「いってくる」と言う声が直接胸に伝わってきた。そのままアズフィール様は、アポロンと共に遠い空に溶けていった。

 アズフィール様の姿が完全に見えなくなると、私はベランダから室内に戻った。
「……さて、鍼のメンテナンスでもしておこうかな」
 今日は午後から女将さんに鍼の施術をする予定になっている。その前に、済ませてしまおう。
 私は鞄の中から鍼道具を取りだすと、針先を慎重に検分し、傷んだ鍼をより分ける。
 ……研ぐ必要があるのはこの二本だわね。
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