秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 文机の上に砥石を用意して腰掛けると、さっそく指先で針柄を掴んだ。ニ、三十度くらいの角度をつけて鍼を回しながら、小さい砥石に押し当て、丁寧に針先を研いでいく。
 研ぎ終わると針先を翳し、じっくりと仕上がりを確認する。
「うん、いい感じね」
 研ぎ上がりに頷いて、さっそく二本目に取り掛かる。
 そうして、ちょうど二本目が研ぎ終わったタイミングで、外から扉が叩かれた。
「メイサ、いるかね。私だ」
「あ、お祖父ちゃん!」
 祖父の来訪を知り、私は席を立つと小走りで扉に向かった。
 私は二日と空けずに実家を訪ねていたし、祖父は内政大臣という仕事柄王宮を訪れる機会が多く、ほとんど毎日のように顔を合わせていた。特に今日はアズフィール様の見送りもあったので、祖父が既に王宮に来ていることは知っていた。
「珍しいね、お祖父ちゃんが部屋を訪ねてくれるなんて」
 だけど、祖父がこんなふうに王宮内の私の部屋を訪ねてきたのは、これが初めてだった。
「いや、なに。会議まで間があったからな」
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