秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 そして、私がこれからアズフィール様に行うのは鍼灸単体の施術ではなく、灸頭鍼。症状の緩和を超えて、彼の心をすべての呪縛から解放する──!
 私はシャーレから鍼を掴むと、胸部を中心に刺しはじめた。合わせて五本の鍼を打つと、針柄の部分に丸めたもぐさをのせて、順番に火をつけていった。
 段々ともぐさが赤く燃えだし、シネオールの香りが立ち昇る。もぐさに混ぜていたラベンダーのやわらかな花の香に清涼感が加わって、心地よく鼻腔を擽った。
「……アズフィール様、あなたが私を守ってくれたように、今度は私があなたを守るわ。何人にも、傷つけさせない。あなたには、私がついている! だから戻ってきて──!」
 いまだ目覚めぬアズフィール様を見つめ、くゆる煙に祈りを込めた。

***

 ……やめろ。
『弟なんていらなかった』
 脳内にはずっと、姉上の怨嗟の声が響いていた。
『死ねばいい』
 とめどなく聞こえてくる呪いの声が、じわじわと俺の心を浸食していく。
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