秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 ご主人と受付の女性に会釈をし、足もとの鞄を掴み上げた。
 部屋を出る直前、処置中ずっと目を瞑っていた男性の睫毛が微かに揺れ、唇を震わせていたようにも見えたが、私は足を止めることなく扉に向かい部屋を後にした。
 そのまま逃げるように養老院を後にして、タイミングよくやって来た王都行きの乗合馬車に乗り込んだ。
 車内で私を見た乗客がギョッと目を見開くのを見て、自分のワンピースが付着した男性の血でひどい状態になっていることを思い出す。私は乗客に驚かせてしまったことを詫び、慌てて鞄からストールを引っ張り出すと、すっぽりと羽織って隠した。
 馬車が走り出すと、ざわつく心を鎮めるようにホウッとひと息吐き出して、車窓へと目を向けた。
 胸がずっと、ドキドキとうるさかった。これは、初めての救命によってなのか。あるいは、それ以外の感情に起因するものなのか……。
 車窓の外を見るともなしに眺めながら、心の興奮と奇妙な高揚感は一向に冷める気配がなかった。

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