秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 俺はこれまで、己の出自を不満に思ったことなど一度としてない。けれど、ロディウスが目をキラキラとさせながら語る異国での武勇伝を聞いていると、胸に高揚と微かなざわめきを覚える。
 高揚はわかる。俺が知らない未知の世界で繰り広げられる出来事は、聞いているだけで心が躍る。
 では、ざわめきはどんな感情に起因するものなのか。己の足で己の道を自由に進むロディウス。対して、生まれた時から将来の王となる道を定められた俺。
 もしかすると俺は、心の奥底で自由な彼を羨んでいるのだろうか……?
「ハッ! 馬鹿馬鹿しい。彼は、彼。俺は、俺だ」
 考えを振り払うように緩く首を振り、前に向き直る。
「それにしても、帰国しているならいるでひと言報せてくればいいものを。出発前に酒を酌み交わした時、『帰国したら報せてこい』と言っておいたのを忘れたわけでもあるまいし、相変わらずいい加減な男だ」
「ギュァ」
 背中の上でやれやれとこぼす俺に、相棒のドラゴン──アポロンが、まるで同意するように嘶いた。
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