秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 私は極力のさり気なさを装って男性から視線を逸らし、花器の中に沈めた手へと移した。だけど、鼓動はいつまでも駆け足のままだった。
 頬が火照っていた。それに、男性に掴まれたままの手首が、もぐさに触れた手のひらよりもっと熱を持っていた。
「……あの、心配いただいてありがとう。でも、もう平気よ」
 されるがまま、しばらくそうしていたけれど、さすがに居た堪れなくなって声をあげた。
「なにが平気なものか。君の手が火傷になったらどうするんだ!」
「あら。それなら、むしろよかったわ」
「なんだと!? 火傷していいわけがあるか。君はいったいどういう思考回路をしているんだ?」
 男性は眉間にクッキリと皺を寄せた。
「えぇっと。ごめんなさい、今のは私がちょっと言葉足らずだったわ。祖父の肌にもぐさを落として火傷を負わせるくらいなら、私が負ったほうがよほどいいと、そういう意味だったの」
 男性は私の答えがよほど意外だったのか、虚を突かれた様子でパチパチと目を瞬いていた。
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