不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「惑わされないんだから……」
手を洗った後、鏡の前で自分に言い聞かせ、頬を両手で軽く叩く。心の乱れが落ち着いたところで、リビングダイニングへ戻った。
しかし、そこでもまた斗馬さんの罠が私を待っていた。
「ビ、ビーフシチュー……」
ダークな石目調のダイニングテーブルには、まるでレストランのようなテーブルセッティングが施されていた。
その光景もさることながら、目の前で温かい湯気を立てるビーフシチューに、私の心はときめかずにいられなかった。
つやのある褐色のシチューの具は、ごろっと大きな、それでいてやわらかそうな牛肉のほか、スライスしたマッシュルームや綺麗に面取りしてある人参。仕上げに生クリームが美しくかけてあり、マッシュポテトまで添えてある。
私の理想を具現化したようなビーフシチューだ。
「千帆、昔から好きだろ?」
正面に腰かけた斗馬さんが、屈託ない笑みで尋ねてくる。
そう、私は子どもの頃からビーフシチューが大好物。昔から何度も食事を共にしたことのある斗馬さんなら、知っていて当然だ。