不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

 私の心境を知る由もない斗馬さんは、親切に弁当箱の蓋を開け、レンジで温め始める。

 所帯じみたその動作は旧財閥家の御曹司である斗馬さんにまったく似つかわしくないけれど、見ていると不思議と気持ちが穏やかになる。

 こんな時、本心ではもしかしたら斗馬さんを許したいのではないかと思う。でも、天使の件は引っかかる。

 許す、許さないの感情が、天秤に乗せられてぐらぐらと揺れる。それでも結局、どちらかに傾いて安定することはない。

 私は斗馬さんに聞こえないようにため息をつき、お湯を沸かしてふたりぶんのお茶を淹れる。

 そしてダイニングテーブルに移動し、改めてふたりで「いただきます」と両手を合わせた。

 しばらく食べ進めたところで、斗馬さんに例の話を切り出した。

「斗馬さん、実はお聞きしたいことがあって」
「ん? なんだ?」

 私はいったん箸を置き、小さく息を吸って話しだす。

「四年前に、斗馬さんも乗り合わせていた船で起きた火災についてなんです。私も真宮クルーズで何度も船上の避難訓練を経験していますけど、実際の火災に遭遇した斗馬さんに、改めてその時の状況や実行した安全対策を伺っておきたくて」

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