毒令嬢と浄化王子【短編】
「あの、一人で大丈夫ですからっ、あの」
 嬉しいけど。
 カールさんと話ができるのは、嬉しいけれど、でも。でも……。
「僕が1人じゃ大丈夫じゃないんだ」
 カールさんがちょっと困った表情をしました。
「え?」
「ミリアと一緒じゃないと……その……せっかく偶然会えたから、えーっと……」
 そういえば、人と接する機会が少ないようなことをカールさんは言っていたし、街で会うのも初めてなのでもしかして……。
「カールさんは、この街は初めてですか?……その、案内が必要とか?」
 私も初めて街に来た時は、どこに何があるのか分からない上に、あまり人と近づくわけにもいかなくて戸惑ったんだ。
 街の人たちは皆いい人で、困っていればすぐにどうしたと声をかけてくれて助かりましたが……。
 私の大好きな街と街の人たちをカールさんにも好きになってもらえるといいな……。
「あー、そう、初めてで、塩もどこに売っているのか分からない」
「分かりました。私で良ければ……案内します」
「やった!ありがとう!」
 カールさんは嬉しそうに笑うと私の横に並んだ。

 腕と腕が歩いているとこつんこつんと当たってしまいそうなほどすぐ隣に……。
 毒が……と、思って慌てて距離を開けると、その分カールさんが距離を詰めてくる。
 もうちょっと離れて歩いてくださいと言えばすむんだけれど……。
 カールさんは近くにいるだけなら大丈夫みたいだし……今は私も手袋に分厚い外套も身に着けているし……。隣を歩くくらいは平気かな……という思いもある。
 ちらりと横に視線を向ければ、カールさんも私を見てにこっと笑う。
「あそこのケーキは美味しいってナターシャちゃんの情報です」
 目についたお店の説明を始める。
「ナターシャちゃん?」
「ナターシャちゃんは肉屋の娘です。いつも会うと色々街のことを教えてくれるんですよ」
 カールさんがナターシャちゃんおすすめのケーキ屋に視線を向けた。
「ミリアは食べたことあるの?」
「あ……私は……」
 ないです。どれだけおいしいと言われる物も、私自身の毒で味が変わってしまうから……。
 そんな理由を説明しても、困った顔をさせるだけかもしれないと口ごもって下を向く。
「ミリアも食べたことがないの?だったら、今から一緒に食べない?」
 え?
「で、でも……」
 私とカールがお茶を?
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