毒令嬢と浄化王子【短編】
 もちろん、私だけが親切にしてもらっているわけではない。
 お店の人からすれば、常連さんの全てに同じようなサービスをしているのだけれど……。
 人に笑顔を向けてもらうことも、親切にしてもらうことにも慣れていない私にとっては特別だ。
 嬉しくて、胸がポカポカして。
 こうして街に買い物に来るのは大好き。
「よう、ミリアじゃないか。今日は何にする?こっちは兎だ。こっちが猪な。ちとこっちは塩がきつめだが日持ちは保証する。ここらは生に近くて柔らかいが、日持ちはしないな」
 肉屋も親切だ。
「あ、ミリアお姉ちゃんだ。こんにちは」
 肉屋の娘のナターシャちゃんが顔をだした。7歳になると言っていた。活発な子だ。
「こんにちはナターシャちゃん。今からお使い?」
 肉を葉っぱで包んだ塊をナターシャちゃんは持っていた。家のお手伝いで配達をしているらしい。
「うん。じゃーねー」

 ナターシャちゃんに手を振って、肉を買って次に向かう。
 あとは塩を少し買って帰ろう。
 屋台が並ぶ区画は、朝の時間帯と昼の時間帯の間は比較的すいている。
 うっかり人とすれ違う時にぶつかる心配もない。
 ……と、いうのに、後ろから歩いてきた人がすれ違いざま肩にぶつかった。
 ぶつかるような場面じゃないのにぶつかる人がいたら、スリの可能性があるから気をつけなさいという言葉を思い出して身構える。
「あ、ごめん」
 通り過ぎた男の人が振り返って謝罪を口にする。
 スリじゃなかった。
「ああ、ミリア……、ぐ、偶然だね?買物?」
「カールさん」
 ど、どうしてカールさんが。
 いや、ここは街なんだし、買物かもしれないし食事かもしれないし、どうしてもこうしてもないんだけれど。
「あ、はい。あの、買い物です」
「持つよ」
 カールさんがさっと手を伸ばして籠を手にした。
「い、いえ、あのっ」
 困って取り返そうと思ったけれど、男性が女性を気遣って荷物を持つことは当たり前に行われることだ。
 むしろ、私と一緒にいるのに、荷物も持たずにボーっとしているような男だと思われたらカールさんの評判が落ちてしまう。
 まって、まって、別に挨拶を交わしただけで一緒にいるわけではっ。
「あと、何を買うの?」
「塩を買おうかと」
 大丈夫です持ちますという前にカールさんが会話をはじめてしまった。
「じゃぁ行こうか」
 え?
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