毒令嬢と浄化王子【短編】
 カールさんが、私の手袋をしている手を握ったまま視線を落とした。
「ああ、手袋……じゃぁ、このままでいい?」
 はい?
 このままと言うのは……手をつないだままという?
「あの、だ、駄目です、お店には行けません。塩を買わなければいけませんし、それに……えっと」
「そうだ、買物の途中だったね。ごめん。じゃあ塩を」
 カールさんは私の手を取ったまま歩き出した。
「手……手……」
 手袋越しとはいえ、ずっとつないでいたら絶対カールさんに毒の影響が出る。早く手を振りほどかなくちゃ。
 でも、なんだか手に力が入らなくて……。
 手袋の中で汗がジワリと出てきました。
 す……少しだけ……。
 ほっぺが熱くなってきた。
 好きな男の子と手をつないで歩く……。
 夢みたい。
 夢……みたいな時間。
 少しだけ。
 塩屋につくまで……少しだけ、このままでいいですか。
 神様……どうぞ、ほんの少しだけ許してください。
 ……そんなことを願ってしまったからだろうか。
 ドーン、ガーン、ゴーンと、激しい音が鳴り響いた。
「あっちだ!」
「何が起きたんだ!」
「建設中の建物で事故だ」
 街が騒然とする。
「様子を見に行こう」
 カールの言葉にすぐに頷く。
 事故……大丈夫だろうか。
 野次馬が周りを取り囲んでいたのは、新しく建てる聖堂の建築現場だ。
 大きな建物のため、必要となる資材も多く……。
 その材木が立てかけて止めてあったロープが切れて、大量の材木が倒れたようだ。
「人が!人が挟まっているぞ!」
「助け出すんだ、早く材木をどかさないと」
 人が?
 どこに?

 野次馬の数はどんどんと増えていく。どこに人が下敷きになっているのか探していると、泣き声が聞こえた。
「あーっ。痛いよぉ~あーっ」
 はっ。あれは……!
「ナターシャ!」
 肉屋のおじさんが駆けてきた。
 やっぱり、ナターシャちゃんが下敷きになっているんだ。下半身を木材に挟まれている。
「早く助け出さなければ」
 カールさんが材木をどかそうと動き出した男たちの元へと加勢に向かった。
 なん十本もある、太い材木がまるでパズルのように折り重なって微妙なバランスを保っている。
 一つの材木をどかそうと動かすと別の場所が崩れていく。
「こっちにも人が下敷きになっている」
「ここもだ!」
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