毒令嬢と浄化王子【短編】
 近づかれた分後ずさる。
「よ……用がないなら……帰ってください」
 近づかないで。
 傷つけたくない。
 今は平気かもしれないけれど、少しずつ、少しずつ毒に冒されていくかもしれない。
 いやだ。
 傷ついてほしくない。
「用は……そう、話がしたくて」
 また一歩近づかれ、一歩後ずさる。
「私は……話すことなど何もありません……」
 突き放すように言葉を絞り出すと、青く澄んだ瞳を少し曇らせて私を見る。
「すまない……その、僕はこうして人と接することに慣れてなくて……不快な思いをさせたのなら謝るから……どうか、僕を拒絶しないでほしい」
 どうして謝るの?私が……私がこんなだから悪いのに……。
 本当に泣きそうだ。
「私も……人と話すことには慣れていなくて……つ……疲れてしまったので……」
 小さな声で、そんな言葉が私の口から出てきた。
「あ!ごめん!そうだよね、突然押しかけるなんてそれだけでも十分マナー違反だ。今日は帰るよ……あ、また来てもいい?」
 もう来ないでください。
 そう言いたいのに。
 小さく頷いてしまった。
 その質問をする彼が、不安で押しつぶされそうな顔をしていたから。
 私が頷いたのを見て、彼が満面の笑みを見せる。
「ありがとう!僕はカールだ。……名前を聞いても?」
 名前?
 毒令嬢の噂を聞いてここに来たのではないの?……それとも、噂では私の名前すらささやかれないのだろうか。
 怪物だとかバケモノだとか名前以外で呼ばれているのかもしれない……。
「ミリア」
★視点★
「聞いてくれ!ハーバン、話したいことがたくさんあるんだ!」
 胸に抱える気持ちが抱えきれなくて、帰るなり側近のハーバンの元へと足を運んだ。
「あ!殿下!一体どこにいたんですか?その恰好は、また視察という名の放浪ですか?いい加減にしてくださいよ。仕事もたまる一方で」
 執務室でうずたかく積まれた書類と格闘しながら、ハーバンがプリプリと怒っている。
「ハーバン」
 申し訳ないとは思いながらも、今はそれよりもこの喜びを聞いてほしいという思いが先で、書類を手にしていたハーバンの手を取った。
「うわ、……で、殿下っ」
 ハーバンが手を僕に手を取られたことで、立ち上がり、そして深々と頭を下げた。
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