毒令嬢と浄化王子【短編】
「申し訳ありません殿下。私は昨日夜遅くまで飲み歩いておりました。そのせいで少々睡眠不足で……機嫌が悪いの殿下に八つ当たりするような発言をいたしました。私は本当に人間が出来ておりません」
 おっと。しまった。
 慌ててハーバンの手を離して、机3つ分ほどの距離をとる。
 しばらくしてハーバンは下げていた頭をがばりと上げた。
「殿下!不用意に触らないでくださいよ!浄化されちゃうところだったじゃないですか!」
「いや、ハーバン、普通は僕が触ると簡単に浄化されちゃうもんなんだけどな。短時間で復活するなんてお前はよほど腹黒」
 いつもの軽口をたたくとハーバンがふんっと鼻で笑った。
「耐性が付いているんですよ。なんせ乳母の息子ってだけで、ずーっとめんどくさい殿下の面倒を見させられ尻ぬぐいさせられて来たんですから」
 ハーバンの言葉ににこにこと笑って見せると、はぁーとハーバンは大きなため息をついた。
「何、喜んでいるんですか」
「いや、だって、誰も彼も皆僕に浄化されちゃって、同じ部屋の空気を吸っているだけで勝手に行い反省したり自分の罪を告白したりなんなら生きていられないと飛び降りようとしたりするだろう?」
「そうですね。不正が行われなくて非常に便利ですし、外交面でも腹の探り合いというめんどくささ抜きで本音で交渉できますから殿下の浄化能力は役立ちますが、悪いことをしていればしているほど効果が強く出るので一緒の部屋にもいられなくて迷惑ですよね」
 ハーバンの罵る言葉に、再び笑顔になる。
「だから、何で笑ってるんですか」
「いや、だから、心が浄化されて何の悪意も持てなくなった人間は、人を少しでも傷つけるような言葉も態度も取れなくなるだろう?改心しちゃうし、悪態付けなくなるし、怒った顔一つしなくなる。僕の顔を見て迷惑だなんて普通の人と同じように言ってくれる人なんて、ハーバンと妹と両親とロッテンマイヤン位だから……」
 ハーバンが可哀そうな子を見るような目を僕に向けた。

「それでも、触れれれば私たちも浄化されるんですから。うっかり触らないでくださいよ」
「いや、すまない。あまりにも素晴らしいことが起こって、興奮してしまったんだ」
 ハーバンは、悪態をつきながらも僕の面倒を本当に良く見てくれる。
 兄のような存在だ。
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