冷血公爵様が、突然愛を囁き出したのですが?
 その日の夜、僕の屋敷は誰かに雇われた集団に襲撃された。
 屋敷にいた使用人達は殺され、最後まで僕を庇おうとしたマリエーヌも、僕の目の前で殺された。
 そいつらは僕の事は手にかけることなく、屋敷に火を放って去っていった。

 血を流して横たわるマリエーヌの姿を、僕は動くことも出来ず呆然と見ている事しか出来なかった。
 
 僕のせいだ。
 彼女は僕のせいで死んでしまった。
 誰よりも大切で、守りたかった唯一の女性。

 後悔の念……叫び出したい程の激しい悔しさは涙となり溢れだした。
 
 最期に彼女の傍に行きたい。
 彼女に必死に手を伸ばそうとしても、僕の手は僅かに震えただけ。
 彼女に触れることすら出来ない。

 燃え広がった炎はすぐそこまで彼女の体に迫っている。
 そして僕の体にも。

 神よ、僕の事はどうでもいい、この最期も僕の自業自得だろう。
 だけどマリエーヌは違う。
 彼女が一体何をしたというのだ?

 家族から虐げられ、好きでもない男と結婚させられ、その男からも、仕える使用人達からも冷遇され続けてきた。
 それなのに……彼女は憎まれても仕方が無い僕に、こんなにも優しくしてくれた。
 僕を救い、生きていて良いと教えてくれた……それなのに……

 こんな結末はおかしいだろ!
 マリエーヌだけは……彼女だけは幸せにならなくてはいけなかったはずだ!
 誰よりも幸せになる権利を持っていたはずだ!

 僕の行き場の無い怒り、悲しみは、こんな最悪の結末を許した神へと向けられ、そして懇願した。
 
 神様、どうか、僕にもう一度だけチャンスを与えてください。
 
 もしも、もう一度……もう一度だけやり直すことが出来たのなら――
 必ずマリエーヌを幸せにしてみせる。
 一度も呼んであげられなかったその名を呼び、伝える事が出来なかった愛を……惜しむ事なく彼女に伝えよう。
 君にしてあげたい事は山ほどある。
 君が僕にしてくれた事を、何倍にもして君に返そう。

 そんなありえるはずがない事を考えていた。
 だけど、幸せそうに笑い合う僕達の姿を想像するだけで、死の恐怖と苦しみは紛れていった。
 
 最期の時まで、マリエーヌは僕を救ってくれたのだ。
 
 それが前の人生の僕の最期だった。
 

 

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