美しすぎる魔王様に助けられて異世界で偽装結婚? でも美容師としても働きますよ。
カツ、カツ、カツ…。
誰かの足音が聞こえて目が覚めた。
「真由、目が覚めたか。」
どこか聞いたことのある声にそっと目を開けた。
すると、目の前には四天王の一人でもある吸血鬼のエディーが、私を上から覗き込んでいるではないか。
「あ…あの…エディー様…どうしてここに…」
すると、エディーの吸い込まれそうな真っ赤な瞳が、私に近づいてきた。
そして次の瞬間、唇に何かが触れた感触がした。
柔らかく、少し冷たい感触だった。
それはエディーが私に口づけをした感触だったのだ。
少し冷たく感じたのは、エディーの体温なのだろう。
私は慌ててエディーの口づけから逃れようとしたが、強い力で押さえつけられて動けない。
さらに私が声を出そうとした時、唇の隙間から少し冷たい舌が私の中に入り込もうとしている。
私は必死で歯をくいしばり、侵入をブロックした。
少しして、エディーは諦めたように私から唇を離したのだった。
「え…エディー様…なんでこんなことを、なさるのですか?」
すると、エディーは美しく中性的な顔を歪ませて、厳しい表情をした。
「魔王様は、そなたをもうすぐ元の世界にお戻しになるだろう…だから、戻される前にそなたをさらってきたのだ。…アイリスになり切るのも結構大変だったぞ。しかし、護衛の奴らは誰も気が付かないとはなぁ。」
「なぜ…そんなことを…あなたがアイリスに変装していたのですね。」
エディーは、なぜかクスッと小さく笑った。
吸血鬼のエディーは見たものであれば、なんにでも擬態することができる能力を持っていたのだ。