男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
 初対面の魔法使いにストレスが爆発して暴れるだとか、いくつか想定していた最悪な状況は全て避けられたことには安堵する。

(うん、そうならないとは限らないから辞退しよう)

 二杯目のティーカップも、クッキーと共にぺろりと完食してしまった。

「ジークハルト様、本日はお話をありがとうございました。顔を会わせてすぐ、プライベートな事を聞き出してしまい、すみませんでした」

 立ち上がり、退出の挨拶をしつつ心から詫びを伝えた。

 謝られるとは思っていなかったのか、ジークハルトが「とんでもない」と慌てたように言った。

「えっと、僕の方こそ一階でお待ちしていなくて申し訳なかったと思ってます。あっ、見送りますよ」
「あ、お気遣いなく。大丈夫です」
「ジーク、俺が見送るから扉のことセバスチャンさんによろしく。夕食前の仕事をしているメイド達にうっかり会いたくないんだろ?」

 それは事実だったようで、ジークハルトは「それなら……」と言って、座ったまま見送った。
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