エデンの彼方でいつかまた
瑞希は後日、留乃を敬信の店へと招待した。
真実を教えてくれた礼をしたいという名目である。

畳張りの美しい和室だった。
木製の美しい装飾が施された座卓を挟み、二人の女性が向かい合って座っている。

留乃は飾りたてた服装で、鼻高々に笑った。

「春友敬信は縁談を持ち込まれて、困っていた。そこに、あなたとたまたま再開した。利用する手はないわよね……真実だったでしょう?」

「ええ。本当でした。……でも、それが何か?」

瑞希は冷静に返事をし、留乃は眉を動かした。

「事実でも天明さん。あなたには関係のないことですよね」

留乃はたじろいだ。
少し前の瑞希なら、明らかに動揺し狼狽えていたからだ。

「どんな理由であれ敬信さんは、わたしと一緒にいたいと云ってくれました。無関係のあなたが、口を挟む理由がわかりません」

毅然と瑞希は留乃に向き合う。

「もうこれで終わりにしましょう。そうすれば、わたしも何も云いませから」

留乃は手を握りしめる。
瑞希は美しい。
凛として、筋が通った聡明さがある。

「ふさわしくないのよ、あなたなんか」

苛立った留乃がそれを否定するように瑞希を睨む。

「私がそこにいるべきなのよ! バラされたくなかったら、消えなさいよ」

ほしい物が手に入らず駄々をこねる子供、そのものだった。
瑞希はため息をつく。

「わたしに固執するのは、もうやめてください。 今なら、わたしも昔のことだと気にしないようにしますから」

「なんですって、この……っ!」

怒りに満ちた留乃が手を振り上げ瑞希に手を上げよとした、その時。

「やれやれ。おれを懐柔(かいじゅう)できなかったからと、瑞希に八つ当たりか。困ったお嬢さんだ」

敬信の声がして、和室の襖が開いた。

「ごめんな。おれも瑞希も、同意なんだ。再開はきっかけにすぎない」
「な、あなた……!」
「君のご両親と、婚約者もいるぜ」

敬信は片目を瞑ってみせると、襖を全開にする。

「留乃……! おまえはなんてことを……」

青ざめた留乃の父親と学武が、敬信の後ろに立っていた。
父親だけではない。
同じ会社の同僚、上司、取引先の人間までもが立ち尽くしていた。

「おれの過去を黙って欲しければ、自分を選べと迫ったこと。ごめんな、親父さんたちに映像付きで話したわ」

敬信がパソコンと連携している腕時計を操作すると、瑞希と留乃のいる和室のテレビが作動する。
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