悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。




 ずらりと二人の帰りを待っていた従者達が綺麗に整列しており、帰ってきたことを実感させられる。人で賑わいずらりと並んだ露店の通りも、綺麗な花畑の景色も、城ではなかなか味わえない個性的で癖になる料理達も……ここにはない。

 久々に味わった庶民的な生活に戻れなくなるという寂しさが込み上げてくるのと同時に、大きな手がファウラの手を包んだ。



「また行こう。今度はちゃんとした新婚旅行として。俺の――妻として、隣にいてくれ」


「うん。約束ね」


「……ああ」



 何処か力ないルイゼルトの返事にファウラは引き留めようとするものの、止まった馬車の外から扉が開かれ、握られていた手が離された。感じていたい温もりが徐々に薄れていく。



「一つだけ注意しておいて欲しい。くれぐれも神殿の奴らとは関わるなよ」



 そう呟くルイゼルトはどこか苦しそうな表情をするせいなのか、顔を横に向けた際にちらりと見えた鎖骨の茨の痣が僅かに伸びたように見えた。

 外で待っていたユトの姿に臆することなく馬車を降りたルイゼルトは、旅行で羽を伸ばしていた人物とは別人に思えてしまう。馬車から降りようとするファウラに彼は手を伸ばし掛けたが、一刻も仕事に手を着けろと言わんばかりに宰相が取り囲み書類を手渡していく。

 代わりの従者がファウラが馬車から降りるのをエスコートし、帰ってきた城の地面に足が着くころにはもう、ルイゼルトの姿はなかった。



「流石、国王様ね……」


「陛下には陛下の仕事を、ファウラ様にはファウラ様の仕事をしていただきますよ?」


「……えっ?」



 ルイゼルトの姿ばかりを追いかけていたファウラに思いも寄らない死角から声を掛けられ、びくりと肩を震わせた。






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