悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。






 声のする方へと振り返れば、にこやかな笑みを全く崩さないユトの姿がそこに在った。



(てっきりルイに付きっ切りかと思ってたのに、まさかの私?!)



 ルイゼルトから聞いたユトのあれこれを思い出し、顔を引き攣らせ血相を変えたファウラに対して、大きな声で怒鳴ることもなく、ただ静かに彼女の背中に手を添えた。



「ファウラ様にはこれから華燭の典までの間にこの国の歴史や、最低限のマナーを学んで頂きます。一つの花嫁修業のようなものですね。陛下をしっかりと支えて頂く、最高の妃様になるようしっかり意識して学んで下さいね?……お願いしますよ?これ以上、陛下を甘やかしたら、ファウラ様の修行もきつくなることを、どうかお忘れなきよう」



 最後の言葉はただの脅しだと、つうっと背中に流れていく冷や汗を感じながら、言われた通りに修行するために用意された部屋へと向かう。

 待っていた明らかに出来る貴婦人の空気を身に纏った女性を前に、背筋が伸びる。



「これからファウラ様の教育係を務めさせていただきます、ローレンと申します。以後お見知りおきを」



 眼鏡をくいっと上げてから、綺麗な一礼を見せる女性に嬉しそうに微笑むユトが段々と怖くなってきたファウラは、引き攣った笑みのまま自己紹介を済ませる。

 粗方母国の王宮内で暮らしていた頃の経験はあるものの、こうして王妃としての立ち振る舞いやマナーを学ぶと思うと、少々気が遠のきそうになる。



(でもこれもルイの隣に居るために必要なこと……なら、やるしかない)



 旅行の疲れもまだ少し残ってはいるが、自分と同じように疲れがある状態で膨大な仕事が待っているルイゼルトに比べれば、まだ生易しいものだと言い聞かせる。







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