鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
――バリッ!

彼――声からするにたぶん男性の声と共に、いやーな音が足下から響いてきた。

「あ」

「あ」

仲良く、ふたりで同じ一音をハモる。

「眼鏡ってもしかして、これ?」

私の顔面すぐ傍まで近づけられたそれは、変わり果てた私の眼鏡だった。

「それ、ですね……」

はぁーっ、とため息が私の口から落ちていく。
眼鏡のがないと私は全く動けない。
先方を待たせるのと、時間どおりだけど使えない自分を天秤にかけた結果、前者を選んだ。

「あの!
このあたりに眼鏡店、三十分でできるファストの眼鏡店、ありませんか!?」

それならば遅刻は三十分程度で済むはずだ。
上司は私を、途中でランチくらいしといでーと、軽い調子で先に商材を取りに行かせたくらいだから。

「あるねー。
あそこに」

「……どこ?」

彼が指さしている……であろう場所を見るが、ぼけぼけでなにもわからない。
いまいる歩道のすぐ横、そこに走る車すらなんとなく、だ。

「君、ひとりでたどり着けるの?」

「うっ」

彼の言葉はもっともだ。
一歩でも足を踏み出すのは勇気がいるくらいなのに。
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