鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
ため息をつき、再び立ち上がる。
今度淹れてきたコーヒーは邪魔されることなく飲めた。

「黒にシルバーのラインだけって、ちょっと淋しい……」

がしかし、男性も持てるようなデザインじゃないといけないわけで。
でも、ゴージャス感は出したい。

「星とか月とかあしらったらどうだい?」

「……月……星……それならコンセプトからも外れないし……」

試しにやってみつつ、ふと気づく。

……いまの声は、誰だ?

「……」

「はぁい」

ゆっくりと顔を上げたら、眼鏡越しに目のあった神月さんが、ひらひらと手を振った。

「苺チョコちゃんってこんなお仕事してたんだねぇ。
これって僕の服のデザインなんかもできるのかい?」

「服のデザインはまた違うので……」

勝手にあいている隣の椅子を引っ張ってきて座り、興味津々に画面をのぞき込んでいるけれど。
セキュリティは大丈夫なのか!?
いや、神月さんが誰かに口外するとは限らないけど。
でも、ここは発表前の商品なんかを扱っているんですよ?
部外者が入ってきていいわけがない。

「ん?」

まじまじと私が顔を見ていたのに気づき、神月さんの首が傾く。

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