鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「僕は部外者じゃないよ?
ほら」

得意げに首からかかる入館証書を見せてくれたけど。
それでも入れる範囲は限られているんですが?

「でもほんとよかったねー、その顎、綺麗に治って」

眼鏡の下で目尻を下げ、彼がにぱっと笑う。
ううっ、トップモデルの笑顔は眩しすぎる。

「あ、あの。
なんで顎の傷のこと知ってるんですか?」

私と彼に接点なんてなにもない。
あるはずがない、しがない一般人の私と、トップモデルの彼に。
なのに顎の傷だとか、あと苺チョコちゃんという謎の呼び名も気になる。

「え、僕のこと、覚えてないの?」

「はい……」

数度瞬きし、さぞ意外だという顔をしているが、何度もいうがトップモデルの彼と接点などあろうはずがない。

「あー、あの日、苺チョコちゃん、全然見えてないみたいだったもんね……」

がっくりと彼の肩が落ちる。
申し訳ないので必死に思いだそうとするもののやはり、私の記憶に彼はどこにもいない。

「その僕が選んだ、苺チョコ眼鏡。
僕は忘れないよ?」

「……選んだ……苺チョコ眼鏡……」

そこまで反芻してはっ、と思い至る。
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