鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
だってあの、神月伶桜がいるんだよ!? 気にしないほうがおかしい。
さすがに、プライベートを邪魔するような無粋な人間はいないようだけど。

「えっと……」

緊張マックスでとりあえず口を開いた。
状況がわかるまで時間を稼がないといけないのはわかるが、なにを話していいのかさっぱりわからない。
それでなくても普段でもあまり人とコミュニケーションを取るほうじゃないし、さらに相手はトップモデルだ。
共通の話題などあるわけがない。
ぐるぐると回る視界の中で、ショートケーキに目が留まった。

「あ、甘いものが好きなんですね!」

「ん?
これは苺チョコちゃんに。
僕は甘いもの、そんなに得意じゃないんだよね。
ほら、あーん」

にこにこと嬉しそうに笑い、フォークに刺した苺を差しだされる。

「え、えーっと……」

「ほら、あーん」

「あ、あーん?」

半ば、苺を押しつけられ、仕方なく口を開いた。

「おいしい?」

今日も変装用なのか、かけている眼鏡の下で目尻を下げて彼が笑う。

「ほら、もっと食べなよ」

今度は、一口大に切ったケーキを差しだされる。

「あの、ひとりで食べ……」

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