鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「僕が、苺チョコちゃんに食べさせたいの。
ほら、あーん」

「えっ、あ、あーん」

仕方なくまた、おとなしく口を開けた。
近くの有名店から取り寄せているそのケーキを食べられるなんて、こんなときでなければご機嫌になれるのに惜しい。

「苺チョコちゃんは可愛いな」

ケーキを食べる私を、神月さんはうっとりと見ている。
のはいい。
いや、よくないが。
私のどこにそんなにうっとりと見るような要素があるのかわからない。
が、それはこの際おいておく。
それよりも問題は。

「その。
……苺チョコちゃん、って」

再会してから、いや思い起こせばあの日も彼は、私を苺チョコと呼んでいた。
でも名前がわかったいま、その呼び名はないんじゃないかと思う。

「ん?
だってその眼鏡が、苺チョコみたいだろ?」

「……そう、ですが」

だからといってその呼び名は、安直すぎる。

「あと、君が苺チョコみたいに可愛いから。
僕は甘いものが好きじゃないが、君なら食べたいな」

頬を抱えるようにして両手で頬杖をついた彼が、にっこりと笑う。
途端に顔がボッ!と火を噴いた。

「た、た、食べたい、……って!」

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