鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
『え、なに?
転んだの?
それでしかも、眼鏡を壊した、って?
なにそれ、サイコー!』

電話の向こうで上司はゲラゲラと笑っていて、ムッとした。
いい上司ではあるんだけど、ときどきこうやって無神経なことをいうのが玉に瑕だ。

『いいよ、いいよ。
先にそれがなくてもできること、進めておくからさ。
昼メシもまだなんだろ?
ゆっくり食ってきたらいい。
あ、でも、眼鏡ないとメニューが見えないか!』

せっかく、上司優しい! とか思っていたのに、自分からぶち壊してくる。
そういう人なのだから仕方ないけど。

「じゃあ、よろしくお願いします」

まだ笑い続けている上司を無視して電話を切った。
眼鏡ができるまで三十分はある。
そのあいだ、時間を潰さなきゃだけど。

「電話、終わったの?」

「ひゃっ!」

突然、頭上から声が降ってきて悲鳴が漏れる。

「じゃあ、行こうか」

「ど、どこへ……?」

私を眼鏡店へ連れてきてくれた彼が、手を掴む。

「その顎、手当しなきゃだろ。
派手に擦り剥けてるよ」

私の手を掴んだまま彼はどんどん歩いていく。
< 6 / 105 >

この作品をシェア

pagetop