鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
立ち止まったところにある看板の文字がかろうじて読め、中へ入っていこうとする彼を止めた。

「病院なんて大袈裟、なので」

たかが、顎を擦り剥いただけなのだ。
それで病院だなんて。

「大袈裟じゃないよ。
女の子の顔に傷が残ったらどうするの?」

彼の声は心配そうで、それにさっきから思っていたがかなりのイケボなので、普通の女子ならきゅんとするだろう。
しかしながら。

「顔に傷が残るとか、いまさらなので」

この顔にさらに傷ができたところで別に困らない。
だって私は。

「どうして?
こーんなに可愛い顔に傷が残ったら、可哀想だよ」

彼の言葉が、私を縛る鎖を意識させた。

『女の子なのに、顔に傷が残って可哀想』

それは、私を縛る呪いだ。
私の顔を見ては両親は申し訳なさそうで、いつも家では息ができなかった。

「……放っておいて、ください」

私の手を掴む、彼の手を振り払う。
彼に悪気がないのはわかっている、普通なら当たり前の感覚だ。
でも私はそれが、苦しくて苦しくて仕方ない。

「あ、また僕、なにか気に障ることでも言っちゃった?
ごめんね」

思わず、俯いていた顔を上げていた。
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