鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「支払いはこれで」

さりげなく、彼がコイントレーの上へカード……たぶん、を置く。

「え、そんなの困ります!」

見ず知らずの方に眼鏡店に連れてきてもらってさらに眼鏡を選ぶなんて迷惑をかけたうえに、眼鏡代まで払ってもらうなんてできるはずがない。

「僕が君の眼鏡を踏んで壊してしまっただろ?
弁償するのは当たり前だ」

「で、でも……」

私が転ばなければ眼鏡はあそこへ飛んでいかなかったし、彼も私を助け起こそうとしなければ眼鏡を踏まなかった。
ならば、悪いのは私では?

「いいから。
素直に受け取っておきなさい」

結局、押し切られて彼に支払ってもらう。

「ありがとう、ございました」

「うん?
これは僕が悪いんだから、気にしなくていいんだよ」

ぽんぽんと軽く、彼の手が私のあたまに触れた。

「あ、触られるの、嫌なんだっけ。
ごめんね?」

どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。
世の中にはこんな人もいるのだと、びっくりした。


検眼を済ませ、待ち時間で上司へ電話を入れる。

「三十分くらい、遅れます。
転んで、眼鏡を壊してしまって」
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