鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
が、それは私の手札の向こう側なので、私にも彼のカードは見えている。
ちなみに、五枚ある彼のカードの真ん中はジョーカーだった。

「ほら、苺チョコちゃんからだよ」

「……」

曖昧な笑みを浮かべ、一番右のキングに手をかける。

「ほら、ダメだよ。
それじゃ、ペアにならない」

しかしながら指が触れた時点で、神月さんからダメ出しされた。
ええ、わかっていますが?
でも、あからさまにペアになるカードを引くのもどうかと。

「ほら、一番左のハートのクイーンを引かなきゃ。
僕のハートのクイーンは苺チョコちゃんだけど」

器用に首を曲げ、私の頬にちゅっ。
これでいいのかとセバスチャンさんに視線を送るが、彼の表情も、そのぴっちり七三分けにセットされた髪も、一ミリも動かない。

「……」

無言で指定されたハートのクイーンを引き、手札とあわせてテーブルの上へ捨てる。

「次は僕だねー」

ふとみたセバスチャンさんの手札には、あからさまに飛び出したカードがある。

……いやいや。
ないない。

私は心の中で盛大にツッコミを入れたけれど、神月さんは迷いなく、それを抜いた。

「揃わないなー」

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