鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
この家、どうみても近代建築じゃないし。
戦前の建物を住みやすくリフォームしています、とか言われても驚かない。

夕食の最中もやはり、神月さんは私の顔を見て始終にこにこ笑っていた。
エリザベスさんのおかげでいつもより可愛い私になれているとはいえ、そんなに愛でるほどのなにかが私の顔にあるとは思えないんだけど。

「スケジュールを確認したけど、土日だと再来週の日曜が休みのようだ。
引っ越しはそこでいいかな」

「……ハイ?」

つい、首が横へ傾いた。
引っ越し、とは?

「あの部屋は危ないから、僕の部屋へ引っ越す約束だろ?
もう忘れたのかい?」

くいっ、と神月さんが赤ワインを飲み干し、エリザベスさんが空になったグラスへと注ぐ。

「えっと……。
前向きに検討はしますが、まだ住むとはひと言も」

ここに来てからその話は出なかったので、もう忘れているのだろうと思っていた。

「そんな、政治家みたいな言い訳しないの。
それに僕、そう言ってはぐらかす政治家は全く、信用してないんだよね」

一口大に切った牛肉を神月さんはぱくりと口へ入れた。
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