鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
赤ワイン煮のソースが、彼の形のよい唇を薄く覆い、テカテカと光る。
それはなんだか淫靡で、見ていられなくなって視線を逸らした。

「再来週の日曜に、ここへ引っ越し。
これはもう、決定事項だから。
わかったかな?」

最後のひとくちが彼の口へ消える。
ごくりと飲み込み、汚れた口を彼はナプキンで拭いた。

「でも……」

「家賃も生活費も心配することはない。
これは僕のわがままで、苺チョコちゃんと同居するんだから」

言い淀む私へ、彼がさらに続ける。

……わがまま、なのはわかっているんだ。

「もし、もしも。
僕よりも苺チョコちゃんを大事にしてくれる人間が現れたのなら、僕はそいつに苺チョコちゃんを任せるよ。
だからそれまでは、僕に苺チョコちゃんを守らせてくれないかな」

眼鏡の向こうから私を見つめるブラックダイヤモンドは、強い意志で光っていた。

「……もし」

「ん?」

「もし、貴方に私以外の好きな人間ができたときも、出ていっていいですか」

きっと、彼が私を可愛がるのなんて、ただの気の迷い。
あのときのおっちょこちょいな私が面白かっただけのはず。
それならそのうち、飽きるはず。

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