鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
鉛のように重い足を無理矢理上げ、階段を上っていく。
……トン、……トン、と淋しく、私の足音が夜の空気に響いた。

「……」

鍵穴へ鍵を差し込む私の手は、ぶるぶると震えていた。

「た、ただい、……ま」

予想どおり玄関には、男物の大きな靴がある。

「遅かったな」

部屋の中からあの人の声がした。

「あっ、えっと、その」

言い訳を考えながら部屋へと続くドアを開けるが、なにも思いつかない。

「どこ、行ってたんだ?
何度も連絡したが、繋がらないし」

「その、あの、……携帯、充電、切れてた、から」

そんなの、嘘。
彼からの連絡が怖くて、バッグの中には電源を切ったままの携帯が入っている。

「ふぅん、そうか。
メシはもう、食ったのか」

「えっ、あっ、……はい」

「そうか。
俺はコンビニ弁当だったけどな」

ぐびっ、と缶から直接、ビールを彼が呷る。
テーブルの上にはコンビニ弁当の残骸と、ビールの空き缶が数本、転がっていた。

「……」

バッグを部屋の隅へ置き、テーブルの横へ正座する。
彼――袴田課長は私の方へ視線を向け、さらにビールを呷った。
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