鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「その髪、どうしたんだ?
化粧も」

「あの、えっと、ちょっと人に、してもらいました」

「ふぅん。
その醜い傷、晒す気になったのかよ」

「……!」

彼の指が傷痕を突き、胸がずきんと痛んだ。

「どこぞの男に言い寄られて、いい気になってるのか?」

はん、と彼が鼻で笑い、なんのことかすぐにわかった。
神月さんからもらった花束を指している。
流しに置いてあるからすぐに気づくはずだ。

「誰だ?
俺のチョーコに手を出す奴は?
……神月、か?」

その名を出されただけで、びくりと身体が反応する。

「……ビンゴ」

飲み干したビールの缶をテーブルの上へ置き、彼はゆらりと立ち上がった。

「言っただろ、アイツみたいな地位も名誉もなんでも持ってる奴が、チョーコみたいな人間の気持ちなんて理解できるはずがない」

袴田課長の手が、私の手を引っ張る。

「……めて」

ソファーへ押し倒され、眼鏡をそのへんに放り投げられた。

「この傷で苦しんでるチョーコの気持ちを理解してやれる奴は、俺だけだ」

「……ら、ないで」

前髪を掻き上げ、彼の手が私の傷へ触れる。
嫌悪感が背筋を這いずり回った。

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