禁断の味はチョコレートのように


「先日、利奈さんに川島さんとの事聞きました。
私、何も彼女がそういう苦しみを抱えていたなんて知らなくて」

お酒も進み、伏し目がちに杏が話し出す。
翔太は川島から細かいことは聞いていない。
会の暗黙のルールとしてそういう事には踏み込まないからだ。

「俺は川島さん達との間柄はよく知らないんだ。仕事の関係で知人を介して知り合ったとは聞いているけど。
あの会で仕事の人脈が広がることも確かにあるけど、女性に関することは聞かないのが暗黙のルールでね。
そうは言っても、川島さんから声をかけられて杏と出逢ったから、川島さんから聞かれればデートしましたくらいは言おうかな。
俺だって素敵な女性と出会ったと自慢くらいはしたい」

杏を見るその目は熱く、目をそらさなきゃと思うのに杏は翔太の目からそらせない。
テーブルの下にある杏の足に、何かが当たった。
それは翔太の靴で杏の靴を脱がすように、靴のかかとをコツ、コツ、と軽く当てている。
それはまるで何かの合図のようで、杏は恥ずかしさから俯いた。

翔太はわかってやっている、自分の反応を楽しんでいる。
それも受け入れてしまっているのだ。

相手は既婚者、深みにはまってはいけない。
まだただの食事相手なら、ただ出かけるだけなら男友達ですむ。

必死にその狭間で苦しんでいる杏を、翔太はワインのグラスを傾けながら楽しんでいた。

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