禁断の味はチョコレートのように



「園田さん」

デスクで仕事をしていた杏に、先ほど会議室にいた営業部の男が声をかけてきた。
杏は何か失礼があったのではと立ち上がる。

「いやいや何も無いから。
そうじゃなくてね、取引先の人が君を呼んでいるんだ。
さっきの会議室に行ってくれる?
知らなかったよ、橋本さんと知り合いだったなんて」

杏は意味がわからず聞いていたが、橋本という苗字を聞いて固まる。

年齢的に翔太くらいだろう、それでいて橋本という苗字で杏は面識は無い。
なのに相手が呼んでいる、もうそれは翔太の妻だ。

ぐらりと地面が揺れた気がして思わず机に手を突いた。

「園田さん大丈夫?」

「すみません、ちょっと目眩がしただけで」

男が心配そうに声をかけた。

まさか。
まさかこんなところで不倫相手の妻が自分に声をかけてくるなど想像できただろうか。
そもそもこの会社に来たのは偶然か、それとも仕組まれた物なのか。
これを翔太は知っているのか、杏は頭も心も混乱していた。

「もし行けそうなら行ってくれる?
あちらもお忙しいからお待たせするのは」

あまり待たせて取引先の機嫌を損ねたくない、そういう雰囲気を感じ取って杏は行きますと答えて足を進める。

だが同じフロアのはずなのに、目の前が真っ白になりそうだ。
翔太に連絡したいのにその時間すら与えられなかった。
何を言われるのか。
金を払えと、いや翔太の不利になることを言われたら。

杏は現実に起こる不倫の代償を、自分では理解していなかったことを痛感していた。

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