禁断の味はチョコレートのように



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新しい職場で杏はパソコンを前に唸っている。

「ちょっとー、納期まであと僅かなんだけど?」

「あと少し!あと少し直したいんです!やっぱり違和感があって」

妥協したくない杏は、ため息交じりに何度目かの催促をする利奈に手を合わせて懇願する。

あの後、杏は利奈から転職することを打ち明けられた。
出来て間もない少人数の会社だが、利奈の営業手腕を買われスカウトされた。
その橋渡しをしたのは川島だ。

利奈はそれを機に離婚し、今はフリー。
そして未だに川島との関係は続いている。

杏は利奈に誘われてその会社の面接を受け合格、念願の商品開発部に所属できた。
人数も少ないので残業も多いが、やっとこの歳でやりたいことが出来ている。
それが不倫による利奈と川島が関係し、橋本夫婦の存在で今の自分があると思うと、人生はわからないと思ってしまう。

杏はあの約束通りその後翔太との関係を終えた。
さっぱり終えたわけでは無く、杏がかなり傷心していたのを利奈が気晴らしに付き合い、その延長線のように転職話が持ち上がった。
何もかも一新したい気持ちだった杏にとっては渡りに船。
もうそろそろ29歳も終わりになって焦っていないと言えば嘘になるが、仕事が忙しいことが救いだった。

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