指輪を外したら、さようなら。
陸が勤めるEmpire Hotelに麻衣が男と現れ、部屋に連れ込まれそうになったのを陸が助けた話になり、みんなで心配する。
麻衣は容姿にコンプレックスを持っている。
童顔で背が低く、ぽっちゃり体形で、胸が大きい。初対面では、まず十歳は若く見られる。
ふっくらした頬、長い睫毛、ぽってりした唇、ゆるふわの肩までの髪。
そのせいで、大学時代から痴漢されたり、告白されて付き合った男に変態的なプレイを要求されたりして、怖い思いをしてきた。
男の視線が胸に集中するのが嫌で、襟の開いた服は着ない。今日も、薄いピンクのシフォンブラウスで胸の大きさを隠し、白のワイドパンツを穿いているが本当はスカートが好きなはず。
それから、一人で夜道は歩かない。防犯ブザーや催涙スプレーは必需品。
「なんで……私には変な男ばっか……」と、麻衣が呟く。
「変態じゃない男に好かれたい……」
麻衣の願いは切実だ。
就職も、何社か手応えのある大手事務所があったのに、一番社員の年齢層が高く、男性社員の人数と女性社員の人数が同じくらいの事務所を選んだと聞いた。
収入面で言えば勿体ないことだが、伸び伸びと働けている様子で、結果オーライ。
「考え過ぎると、余計に変態を呼び込むぞ?」
「大和! 冗談に聞こえないからやめて」
「大丈夫だよ、麻衣さん。ちゃんと麻衣さんの性格とか気持ちを見てくれる男がいるって」
「そ! 俺たちがいるだろ?」
「大和はもう黙って」
慰めにならない慰めの言葉に、麻衣が笑いだす。
さなえは大和を叱り、あきらは麻衣の口に焼き鳥を運ぶ。
変わらない、私の仲間たち。
軽蔑されたくない――。
唯一、私が安らげるOLCを失いたくない。
集まって一時間半が過ぎた頃、さなえのスマホが鳴った。
「もしもし。……いいえ。…………わかりました。すぐに迎えに行きます。……はい。すみません。……はい。お願いします」
「母さん?」
電話を終えたさなえに、大和が聞いた。
「うん。大斗がぐずってるって。先に帰るね」
「俺も――」
「いいよ、大丈夫。お義母さんが家まで送ってくれるって」
さなえはバッグとジャケットを抱えて、立ち上がった。
「ごめんね、みんな。また、ね」
「気を付けてね」
「さなえ――」
見送ろうとして立ち上がろうとする大和の肩に手を置いて、さなえは阻止した。
「大和、飲み過ぎないでね」
「ああ」
「大斗くん、お大事にね」
「ありがとう」
さなえが後ろ手にキチッと襖を締めた。だから、みんな見送りに出るタイミングを逃してしまった。